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小さいとき、いつも一緒に遊んでいた幼馴染の女の子がいた。


4歳くらいのとき、私が勝手に彼女の家に遊びに行ってから一緒に遊ぶようになった。


家が近所で、私よりいっこ上だったので、田んぼとか山とかスーファミとかで二人してやんちゃしていた。


土曜日は、午前中で授業が終わっていたので、集団下校で一緒に話しながら帰っていた。


季節は今のこの時期で、とてもとても暑い中、二人で帰っていた。


集団下校なので最初は十人くらいで帰っているのだけど、二人とも家が遠いので、最終的に二人で帰ることになっていた。



学校から家まで、子どもの足で一時間くらいはかかっていたと思う(でもまだかかっている子もいた)。



暑いので、もちろん水分補給しなくちゃもたないのだけど、小さい水筒のなかのお茶は30分地点で飲み干していて空っぽ。



そんな感じで、永遠に続きそうなアスファルトの照りつける道を一緒に歩いていた時、地域のおじさんが見かねたのか、お盆に二人分のポンジュースをコップに淹れて載せて持って来てくれたのだった。



あっという間にごきゅごきゅ飲んだ二人。



二人の間で、無条件にこのおじさんへの好感度が急上昇したのは言うまでもない。






それから、中高と同じ学校だったのだけど、学年が一個違ったのと、所属する諸々が変わってしまったのとで、別に仲が悪くなったわけでもないのに、疎遠になってしまった。



それでも、この時のポンジュースのことを時々思い出しては、なんだか人生の中でも最良な(という形容が適切かは十代では判然としなかったけど)思い出の一つのような気がしていた。



暑い中で二人でポンジュースを飲ませてもらったというだけのことなのに。



それが、数年前、彼女とたまたま沖縄で出会った。


彼女は沖縄に住んでおり、私は大学のサークルのメンバーとスタディツアーで沖縄に泊まっていたので夜中に時間をもらってホテルのロビーで待ち合わせて会った。



彼女とまともに話すのは、十年ぶりくらいだったのだ。


私はふと、あの日のポンジュースのことって覚えてる?と尋ねた。


彼女もしっかり覚えていた。


そのとき、二人でちょっとテンションが上がった。


深夜の暗く冷たい大理石で覆われたロビーの空間が、二人のためにちょっとだけ柔らかくなった気がした。



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今改めてあの日のポンジュースのことを思い出しても、どこが特別良いという話ではないように思っている。


どう眺め回しても特別な要素などないように思う。



一緒にポンジュース飲んだね、美味しかったね、くらいありふれた感じで終わってしまうのだ。



でももしかしたら、このありふれた感じが、身の丈にあった宝物なのかもしれない、と思うようになった。



それにしても宝物がポンジュースとは(好んでは飲まない)




ご静聴どうもありがとうございます。


さておき、水分・塩分補給にお気をつけくださいね。


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