夏休み前に
夏休み前と言えば、別れの季節でもある。
小学三年生のとき、通路を挟んで隣に座っていた男の子と仲良くなった。
と言っても、消しゴムとか定規を貸し借りするくらいの仲なのだけど、最初の印象と違って、気さくな人物だったので少し驚いた。
彼は一年前に転校してきたばかりだった。
とかく、私の中の思い込みで、一回転校してきた子がまたどこかに転校するということは考えたことがなかった。
あと、転校は年度末にするものだと思っていた。
なので、夏休み前にその話を友達から聞いた時はすぐに信じられなかったように記憶している。
転校が決まってから、以前に増してちょっとずつ話すようになった。
けれど、終業式の日にクラスメイトの前でお別れの挨拶と、みんなにお礼の文房具を配って、彼は違う学校に移って行った。
そんなわけで、夏休み明けに彼がいなくなったのを改めて確認した時は、悲しく思った。
ところで、その男の子には、クラスの中で一人、仲の良かった男の子がいた。家が近所だったらしく、よく遊んでいたみたいだった。
仲が良い友達がいるということは、私にとっては、当時すごく羨ましいことだった。
転校して行く男の子とは、終業式の日も普段通り明るく接していた。でも、別れがすぐそこまで近づいてるのには、薄々気づいていたのだと思う。
夏休み明けの日、その男の子もなんだか普段とは違って寂しそうに見えた。
彼とは喋ったことはないけど、なんとなく、もしかしたら自分と似たような気持ちなんじゃないかな、と思った。
誰かと自分が似たような気持ちなのかな、と思ったのはそれが初めてだった。
そう思えたのは、なんとなく悪くないような気がした。
おやすみなさい。